エントリーシートはよく書けているのに、面接で話してみると、その人の力がよく見えない。もっと深く聞きたいけれど、聞きすぎると圧迫面接だと受け取られないか心配になる。採用の現場で、そんな悩みを抱えている面接官の方は多いのではないでしょうか。
私は、企業や公務の採用で、合否を判断するための基準づくりや面接官の研修に携わっています。同時に、大学では学生に就職活動の授業をしています。両方の立場から見て思うのは、深く聞くことと、圧迫にしないことは、両立できるということです。この記事では、そのための面接の進め方を、面接官の方に向けてご紹介します。
深く聞くことは、圧迫面接なのか
深く聞くこと自体は、圧迫ではありません。深掘りの質問は、その経験が本当にその人のしたことなのかを確かめ、その人を理解するために必要なものです。話が上手な人だけを優秀だと見誤らないためにも、面接官は深く聞く必要があります。
ただし、聞き方を間違えると、同じ質問でも相手には「責められている」と届いてしまいます。深掘りを圧迫にしないための鍵は3つあります。①最初に視点を渡す、②聞く前に意図を伝える、③一度相手に戻す、の3つです。この記事では、この3つを中心に、細かな言葉かけや非言語の注意点まで順にご紹介します。
なぜいま、深く聞く面接が必要なのか
いまは多くの学生が、エントリーシートや自己PRを作るときに生成AIを使っています。企業の側もそれを前提にしています。株式会社マイナビの「2027年卒 企業新卒採用活動調査」(2026年6月調査・3,590社)では、学生が就職活動で生成AIを使うことについて、「使い方を慎重に検討したうえで活用してほしい」(76.6%)と「積極的に活用してほしい」(8.2%)を合わせて84.8%の企業が肯定的に見ていました。
一方で、学生の生成AIの活用に対して検討している対応として最も多かったのは、「面接での質問内容を工夫する(エントリーシートの内容とは異なる質問をする・深掘り質問をする等)」で、36.2%でした。書類が整って見える時代だからこそ、面接で深く聞いて、その人自身の考えと行動を確かめることの重みが増しています。
実際、私が面接官として深く聞いてみると、書類はよくできているのに、具体的なやり方や、なぜそうしたのかを尋ねると答えられない応募者がいます。経験の深さや広がり、時間の流れが話の中に出てこないのです。これでは、面接官はその人の力を判断できません。
まず前提を変える――面接は、お互いが確かめる時間
深掘りの方法に入る前に、面接そのものの前提をそろえておきたいと思います。
面接は、会社にとっては「一緒に働ける仲間か」を考える時間であり、応募者にとっては「この会社で働いて大丈夫か」を考える時間です。お互いが確かめ合う時間なのです。一緒に働きたい人には「ここで働きたい」と思ってもらう。ご縁がなかった人にも「いい時間だった」と思ってもらえる。そんな面接を目指したいと私は考えています。
ご縁がなかった方も、これからはその会社のお客さまとして関わり続けるかもしれません。どの応募者にも、敬意と感謝を持って向き合うことが、深く聞く面接の土台になります。
深掘りを圧迫にしない3つのコツ
深く聞いても圧迫にしないための3つのコツを、まず一覧でご紹介します。
| コツ | 何をするか | 面接官の言葉の例 |
|---|---|---|
| ① 視点を渡す | 面接の最初に、お客さまの発想から作る側の発想へ視点を移してもらうよう伝える | 「お客さまとして感じた良さを、今日は作る側に立ったらどうか、という視点で聞かせてください」 |
| ② 意図を伝える | 深く聞く前に、クッションになる言葉と、なぜ聞くのかを伝える | 「恐れ入りますが、背景を知りたいので、もう少し詳しく伺ってもよろしいですか」 |
| ③ 一度相手に戻す | 追いかけて聞きすぎたと感じたら、いったん止めて相手の様子を確かめる | 「興味があって、つい追いかけて聞いてしまいました。大丈夫ですか」 |
① 視点を渡す――「お客さま」から「作る側」へ
応募者の多くは、その会社の商品やサービスを、お客さまとして知って応募してきます。けれども会社が求めているのは、その体験を作る側に回れる仲間です。この切り替えができるかどうかは、実は仕事の適性そのものです。
ところが、切り替えができないまま面接に臨むと、応募者は質問にうまく答えられないことを「怖い」と感じてしまいます。だからこそ、面接の冒頭で、こちらから前提を伝えておくのです。上の表の言葉は、セリフとして覚えるものではなく、一つの例です。ご自分の会社に合う言葉に置き換えてください。
最初にこの視点を渡しておくと、そのあとで深く聞いても、応募者は「責められている」ではなく「作る側としての考えを聞かれている」と受け取ってくれます。作る側に回れる人かどうかを確かめるには、その人が何を見て、どう考え、どう判断するのかを深く聞く必要があります。冒頭の宣言は、そのための準備です。
② 意図を伝える――クッション言葉と「なぜ聞くのか」
深掘りの場面ほど、面接官は応募者の話に興味が湧いて、つい質問を矢継ぎ早に重ねてしまいがちです。そんなときこそ、深く聞く前に「恐れ入りますが」のようなクッションの言葉を置き、なぜそれを聞くのかを一言添えます。
聞く意図が分かれば、応募者は答えの方向を考えやすくなります。意図が分からないまま質問が続くと、応募者は「何か間違えたのだろうか」と不安になり、本来の力を出せなくなります。
③ 一度相手に戻す――追いかけすぎたら止める
それでも、聞いているうちに追いかけすぎてしまうことはあります。そんなときは、いったん止めて「大丈夫ですか」「一度止めましょうか」と相手に確かめます。とくに、相手が答えに困っているように見えるときに効きます。
面接官の集中と本気は、ときに相手には「刺されている」ように届きます。一度相手に戻すことで、応募者は呼吸を整え、もう一度自分の言葉で話し始めることができます。
深く聞く前に添えたい、細かな言葉かけ
3つのコツに加えて、深く聞く前後に添えると効果的な言葉があります。
まず、深く聞く前に言葉にしておくことです。「正解を探す質問ではないので、思うことを自由に話してください」「背景を知りたいので細かく伺うかもしれませんが、大丈夫ですか」と先に伝えておくだけで、応募者の受け取り方は大きく変わります。
次に、考える時間をこちらから渡すことです。「待ちますので大丈夫です」「まとまってからで結構です」と伝えます。とくにオンラインの面接では、黙って待たれていると、応募者は答えられない焦りから自分で恐怖心を生み出してしまいます。
そして、受け取ったことを言葉にすることです。「よく分かりました」「ここが聞きたかったところです。ありがとうございました」。深く聞いたときほど、この一言が省かれがちです。答えを受け取ったことを伝えると、応募者は安心して次の質問に向き合えます。
それでも答えられないときは
ここまで工夫しても、応募者が答えられないことはあります。そのときの対応は、合否の見通しによって分けると考えやすくなります。
| 状況 | 面接官の対応 | 言葉の例 |
|---|---|---|
| 合否がまだ見えないとき | 答えの選択肢は出さず、考える時間か、話題を変えることを提案して続ける | 「もう少し考えますか」「一度、別のお話にしましょうか」 |
| 合否がある程度固まったとき | こちらの理解(仮説)を返して、確かめる | 「お話の内容は、こういうことを大切にされている、ということでしょうか。これは私の解釈ですが」 |
合否がある程度固まった段階で、こちらの理解を返すことには意味があります。合格の人にとっても、ご縁がなかった人にとっても、「自分の話をきちんと受け取ってもらえた」という安心感が残るからです。
また、面接で緊張してうまく話せないことを、それだけで不合格の理由にしないでほしいとも思います。顔が赤くなるほど緊張している応募者は、それだけ気持ちを込めて来てくれています。緊張の中でも一言二言を引き出すのは、面接官の大切な仕事です。面接官は、その人の未来の上司でもあるのですから。
言葉より先に伝わる、面接官の非言語
深く聞く面接では、言葉と同じくらい、面接官の姿勢や表情が相手に伝わります。オンラインと対面で、気をつけたいことをまとめます。
| 場面 | 気をつけたいこと | ねらい |
|---|---|---|
| オンライン・聞くとき | 集中すると前のめりになり、カメラに顔が近づくだけで圧になる。体を少し引いて待ち、相手が話すときはカメラを見てうなずく | 画面越しの圧を減らす |
| オンライン・はじめに | つながった直後から、挨拶と反応をはっきり示す。顔の位置・照明・目線を整える。通信の不調はお互いさまと伝える | 最初の数十秒で安心してもらう |
| 対面 | 質問するときは少し前傾し、聞くときは姿勢を戻して受け入れる。うなずく | 聞いていることを体で示す |
| 相手が考えているとき | メモを取る手を止めて、数秒待つ | 「安心してください」の合図になる |
| メモを取るとき | 「大切なお話なので、少しメモさせてください」と先に伝えてから書く | 書く理由が分かれば不安にならない |
面接官どうしで、何を深く聞くかをそろえる
深く聞く面接を会社全体で行うには、面接官によって見るところがばらばらにならないよう、何を深く聞くかをそろえておくことも大切です。私が採用基準づくりのお手伝いをするとき、面接官の方に気をつけていただいていることを、深掘りの問いの例と合わせてご紹介します。
| 気をつけたいこと | なぜか | 深掘りの問いの例 |
|---|---|---|
| 肩書きや実績の大きさは、中身で確かめる | 代表・優勝といった肩書きだけでは、その人が実際に何をしたかは分からない | 「その役割の中で、ご自身が具体的に担っていたことは何ですか」 |
| 自然に出てしまう強みは、本人が自覚していないことが多い | 意識せずにできていることほど、本人は当たり前だと思っている | 「周りの人から、よく言われることは何ですか」「誰にも頼まれていないのに、続けていることはありますか」 |
| 意図して工夫した話は、あとからでも語れてしまう | 結果を知ったあとで、筋の通った話に組み立て直すことができる | 「そのとき、ほかにどんな方法を考えましたか」「途中でやり方を変えたことはありますか」 |
とくに3つめは、生成AIで整えた書類を確かめるときにも役立ちます。選ばなかった選択肢や、途中で直したことを尋ねると、その人が実際に考えて動いたかどうかが見えてきます。
また私は、面接の評価を「点数をつける」ことよりも、「この人はこれを持っている」と言えるところに印をつけていく作業として捉えています。面接官が粗探しの目ではなく、その人の力を見つける目で臨むと、深く聞く質問も、自然と相手を理解するための問いになります。
この記事でご紹介した3つのコツや言葉かけは、私が面接官の方に向けた研修でお伝えしている内容の一部です。
深く聞いてよいこと、聞いてはいけないこと
深く聞くことは大切ですが、何を聞いてもよいわけではありません。厚生労働省は、就職差別につながるおそれがある事項として、本人に責任のない事項(本籍・出生地、家族、住宅状況、生活環境・家庭環境など)や、本来自由であるべき事項(宗教、人生観・生活信条、尊敬する人物、思想、支持政党、購読新聞・雑誌・愛読書、労働組合や学生運動などの社会運動など)を挙げています(厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」)。
つまり、深く聞くべきなのは、応募者の価値観や人生観そのものではありません。経験の中で、どんな役割で、何を考え、どう工夫して動いたかです。その人の力は、そこに表れます。
また、面接は、応募者が断りにくい力関係が生じやすい場です。性的な冗談や容姿に触れる言葉、からかい、交際や恋愛についての質問、私的な連絡先の交換、必要のない私的な場所や時間帯での面接などは避けます。
そして、面接は公開されうる、と考えておくことも大切です。録音されて一部だけを切り取られる可能性もありますし、オンラインの画面の向こうに保護者がいることもあります。「こんなことを聞いたらハラスメントかな」と笑いながら聞くようなことが、あとで第三者に聞かれると問題になります。誰に聞かれても大丈夫な面接を心がけてください。
よくある質問
深掘りの質問は、何回くらい重ねてよいですか
回数に決まりがあるわけではありません。大切なのは回数よりも、聞く前に意図を伝え、追いかけすぎたと感じたら一度相手に戻すことです。応募者が言葉に詰まったら、考える時間を渡すか、話題を変える提案をしてください。
緊張してうまく話せない応募者は、どう評価すればよいですか
緊張してうまく話せないことだけで、力がないと判断しないでほしいと思います。会社説明会での聞く姿勢や、緊張しながらも伝えようとする様子には、その人の人に向き合う力が表れています。うまく話す力よりも、一生懸命に聞こうとする姿勢のほうが、仕事の場ではコミュニケーションの力として評価されることも多いのです。
「価値観を知りたい」とき、面接で何を聞けばよいですか
価値観や人生観そのものを尋ねることは、就職差別につながるおそれがある事項に当たります。その代わりに、具体的な経験について「そのとき、何を大切にして動きましたか」「なぜその方法を選んだのですか」と、行動とその理由を聞いてください。経験の中での考え方や工夫を聞くことで、その人らしさは十分に見えてきます。
まとめ――深く聞く力は落とさず、関係を整える
深く聞くことは、圧迫ではありません。その人の本当の力を確かめ、話の上手さだけで人を判断しないために、面接官に必要な力です。
圧迫にしない鍵は、最初に「作る側」への視点を渡し、深く聞く前に意図を伝え、追いかけすぎたら一度相手に戻すこと。そして、考える時間を渡し、受け取ったことを言葉にし、非言語でも安心を伝えることです。
深く聞く力は落とさずに、深く話してもらえる関係を意識する。次の面接では、ぜひ最初の一言に「今日は、作る側に立ったらどうか、という視点で聞かせてください」と添えてみてください。応募者の答えの深さが、きっと変わるはずです。
面接官の方どうしで目線をそろえたい、選考の進め方を見直したいとお考えのときは、企業・官公庁の皆さまへのご案内もご覧いただければ幸いです。
出典
- 株式会社マイナビ「2027年卒 企業新卒採用活動調査」(調査期間 2026年6月3日〜6月20日・有効回答 3,590社) https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260722_112587/
- 厚生労働省「採用選考時に配慮すべき事項」 https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html
