大学・キャリア教育

授業中にゲームをする学生は「主体性がない」のか――ベクトルを授業に向ける問いの立て方

教室の後ろの席で、スマートフォンのゲームに夢中になっている学生がいる。グループワークの時間になっても、なかなか話し始めない。大学でキャリアの授業を担当されている先生方なら、一度はそんな場面に出会ったことがあるのではないでしょうか。

そんなとき、つい「この学生には主体性がない」と感じてしまいます。けれども私は、少し違う見方をしています。この記事では、受け身に見える学生の力を授業に向けるための考え方と、問いの立て方、授業の組み立て方を、私が大学のキャリア科目で実際にお話ししている内容からご紹介します。

授業中にゲームをする学生には、主体性がないのか

答えから言うと、授業中にゲームをしている学生は、主体性がないのではありません。ゲームに対して主体的になっているのです。主体性という力そのものは持っています。ただ、その力の向き(ベクトル)が、いまの授業のほうに向いていないだけです。

ですから教員がすることは、学生に主体性を「身につけさせる」ことではなく、すでに持っている主体性の向きを、授業のほうへ少し向け直す手助けをすることだと、私は考えています。そのための鍵になるのが、その授業が学生自身の好きなことにどう活かせるかを考えてもらう問いです。

学生が受け身に見える背景

学生の学び方が受け身になっている、という見方は、調査にも表れています。全国の大学生4,124名に聞いたベネッセ教育総合研究所の「第4回 大学生の学習・生活実態調査」(2021年12月実施)は、「単位を楽に取れる授業がよい」「学習方法は授業で指導を受けるのがよい」と考える学生が増え、依存的な傾向が強まっているとまとめています。

ただし、私はこれを「最近の学生は意欲がない」という話だとは受け取っていません。授業の外では、学生は驚くほど主体的に動いています。好きなゲームなら何時間でも集中し、勝つための作戦を自分で考え、仲間と相談して工夫を重ねます。

教員の目に「主体性がない」と映る姿と、学生の中で実際に起きていることを並べてみると、次のようになります。

教員の目に映る姿 学生の中で起きていること 見方を変えると
授業中にゲームをしている ゲームに対しては、目標を持って主体的に動いている 主体性はある。向きが授業に合っていないだけ
「ストレスに弱い」と自分で言う 好きなことなら長い時間でも集中して続けられる 力の問題ではなく、自分でコントロールできる場かどうかの問題
「考える力がない」と言う 買い物・料理・友だちの誕生日のサプライズでは、しっかり考えている 好きなことであるほど、考える質は上がる
グループで話そうとしない 人見知りというより、相手に気を使いすぎている 相手を思いやる、優しい力かもしれない

学生自身も、自分の力を低く見積もりがちです。苦手だった場面ほど記憶に色濃く残るため、「私には主体性がない」「私には考える力がない」と思い込み、それが漠然とした不安になっていきます。先生方が「この学生には力がある」という前提に立つことが、まず出発点になります。

力は全員持っている――あとは「どこに向いているか」

経済産業省は、社会で働くうえで必要な力を「社会人基礎力」として、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力で示しています(経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」)。

私は授業で、学生にこう伝えています。この能力は全員が持っていると思ってください。色濃く出るもの、出にくいもの、特定の環境でだけ出るものがあるだけです、と。

たとえば、主体性を考えてみます。主体性が「ない」学生がいるのではなく、主体性が向かう先が人によって違うのです。授業には向かないけれど、ゲームやアルバイトやサークルには向いている。そう考えると、問いは「どうすれば主体性を持たせられるか」から、「どうすれば、すでにある主体性を授業に向けてもらえるか」に変わります。

0か100かで考えないことも大切です。「あるのはある」という前提に立って、まだその力を活かせていない場面で、どう活かすかを考える。できている場面では何をしているのかを先に確かめると、次の一歩が見えてきます。

「情報空間」とは何か――その場が何のための場か

私が授業でよく使う言葉に「情報空間」があります。その場が何のための場で、そこで何が求められているかという、外から与えられている前提のことです。授業という場なら、そこで学ぶこと・考えること・人と関わることが求められています。

授業中にゲームをしている学生は、この情報空間に対して、自分のベクトルが合っていない状態です。そして情報空間を読まずにいると、周りからのサポートやチャンスを受け取りにくくなります。結果として自分が生きにくくなったり、機会を逃したりしてしまいます。

ただ、これを学生に伝えるときに、「場をわきまえなさい」と叱るだけでは、学生は動きません。私が提案しているのは、個人の都合を優先できる自分の情報空間の中に、外からの情報を取り込むという考え方です。「この授業の内容は、自分の好きなことにどう活かせるだろうか」と考えながら授業を受けてもらうのです。

答えがすぐに出なくてもかまいません。そう考えようとするだけで、学生のベクトルは授業と同じ向きを向き始めます。もちろん、これはすぐにできることではありません。だからこそ、授業の中で繰り返しトレーニングする意味があります。

動き出す問い・止まる問い

では、授業の中でどんな問いを出せばよいのでしょうか。私の考え方を、先生方が授業でそのまま使える形にまとめると、次のようになります。

止まってしまう問い 動き出す問い なぜ動き出すのか
社会人基礎力の3つの能力を説明しなさい あなたが好きでやっていることの中で、課題を見つけて工夫した場面はどこですか 自分の経験からなら、誰でも答えられる
あなたの主体性について書きなさい 誰にも頼まれていないのに、つい続けてしまうことは何ですか 「主体性」という言葉を使わずに、主体性が出ている場面を探せる
この授業の感想を書きなさい 今日の内容は、あなたの好きなこと(ゲーム・アルバイト・サークル・趣味)のどこに活かせそうですか 授業の内容と自分の世界をつなぐ橋になる
将来の目標を決めなさい どんな方向に向かっていたいですか。途中で変わってもかまいません 決めきれない学生も、方向性なら話せる

止まってしまう問いの多くは、正解を当てる問いか、まだ自分の中に答えのない問いです。動き出す問いは、学生がすでに持っている経験の中から答えられる問いです。自分のことなら、誰でも話せます。そして話してみると、隣の学生との違いにも気づきます。

好きなことの中の力を「発動トリガー」と「判断」に分けて見せる

学生に「好きなことの中にも力が出ている」と伝えても、最初はなかなか実感が湧きません。そこで私は、学生が好きなことを例にとって、その中で出ている力を目に見える形に分けて示しています。

たとえば対戦ゲームなら、何がきっかけで力が出るのか(発動トリガー)と、そのときにどんな判断をしているのかに分けて、次のように見せます。

ゲームの中の場面 発動トリガー(何がきっかけか) 判断の内容 出ている力
負けが続いたとき 「このままでは勝てない」と気づく 負けた理由を振り返り、どこが弱かったかを探す 課題を見つける力
次の対戦の前 相手の得意な戦い方が分かる 自分の手持ちで、どの順番で何を使うかを決める 計画する力
いつもの作戦が通じないとき これまでのやり方が通用しないと分かる 新しい組み合わせや戦い方を試す 新しいものを生み出す力
仲間と組んで戦うとき 仲間の動きが見える 自分の役割を考え、声をかけ合う チームで働く力

こうして分けてみると、学生は「ゲームの中で自分はこんなことをしていたのか」と気づきます。そのうえで「では、この力をこの授業のレポートや、アルバイトや、就職活動のどこで使えるか」と問いかけると、授業と自分の世界がつながり始めます。

ゲームでなくてもかまいません。料理でも、旅行の計画でも、友だちの誕生日のサプライズでも同じです。好きなことであるほど、考える質は上がるからです。

授業の組み立て方――つなぐ・書く・相談につなぐ

問いを生かすには、授業全体の組み立ても大切です。私が大学のキャリア科目で心がけていることを、いくつかご紹介します。

1つめは、最初に今日の焦点を示し、最後に書いてもらうものを先に予告することです。何を書くかが分かっていると、学生は話を聞きながら自分の中で考えを進められます。

2つめは、身近な素材でたとえることです。ゲーム・漫画やアニメの登場人物・地図アプリなど、学生がよく知っているものにたとえると、抽象的な話が自分のことになります。

3つめは、回をまたいでつなぐことです。前の回で書いた自己PRを次の回の志望動機で使う、というように、学んだことが次の回の材料になる流れにすると、1回ごとの授業が積み重なっていきます。

4つめは、提出して終わりにせず、大学の窓口へつなぐことです。書いたものを持ってキャリアセンターに相談に行く、という流れまでを授業の中で設計しておくと、学生は一人で抱え込まずにすみます。

この4つを1回の授業に落とし込むと、たとえば次のような流れになります。

授業の段 すること 学生に向ける問い・言葉の例
1 はじめに 今日の焦点と、最後に書いてもらうものを先に伝える 「今日の最後に、この内容があなたの好きなことのどこに活かせるかを書いてもらいます」
2 問いかけ 学生の経験から答えられる問いを出す。すぐに答えを出さなくてよいと添える 「誰にも頼まれていないのに、つい続けてしまうことは何ですか」
3 たとえで説明する 身近な素材(ゲーム・漫画・地図アプリなど)で、今日の考え方を見せる 「対戦ゲームで負けが続いたとき、みなさんは何をしていますか」
4 一人で書く 記入例のついたシートを配り、項目を1つずつ説明しながら書いてもらう 「正解はありません。思いついたものから書いてください」
5 となりと話す 書いたことを、ペアや少人数で話してもらう 「となりの人と、出てきた力を比べてみてください」
6 まとめて書く 今日の内容と自分の好きなことをつなぐレポートを書く 「今日の内容は、あなたの好きなことのどこに活かせそうですか」
7 次へつなぐ 次の回で使うことと、相談できる窓口を伝える 「書いたものを持って、いつでもキャリアセンターに相談に行ってください」

段の名前や時間の配分は、授業の長さや人数に合わせて変えてかまいません。大切なのは、問いが学生の経験から出発していることと、書いたものが次の回と相談の窓口につながっていることの2つです。

そしてもう1つ、私が大切にしているのは、できていない学生を責めないことです。目標に届かなかった学生に「できていないからダメだ」と言っても、できるようにはなりません。どうすればできるかを一緒に考える。その姿勢が伝わると、受け身に見えた学生も、少しずつ前に出てきます。

よくある質問

グループワークを嫌がる学生には、どう対応すればいいですか

いきなりグループで話させるのではなく、まず一人で書く時間を取り、次にペア、そしてグループへと広げると、話し始めやすくなります。グループワークでは、時間内にテーマへの答えをメンバー全員で導くことが目的で、最も大切なのは発言することです。上手に話すことよりも、まず一言出すことを大切にしてもらいます。私は学生に、一緒に取り組むメンバーを大好きになるつもりで臨んでください、と伝えています。

大人数の講義でも、この問いは使えますか

使えます。大人数の講義では、全員に話してもらうことは難しいので、毎回の終わりに書いてもらうレポートやシートの中で、「今日の内容を、あなたの好きなことにどう活かせそうか」を問いかけます。答えをすぐに出さなくてもよいと添えておくと、学生は安心して書き始めます。

1年生と、2・3年生とで、問いの出し方は変えたほうがいいですか

変えたほうがよいと考えています。入学したばかりの1年生には、「どんな人生でありたいか」「どんな人に魅力を感じるか」のような大きな問いを出し、今すぐ答えを出さなくてよいと伝えます。目標は方向性でよく、途中で変わってもかまいません。2年生には、まず「やってみたら意外と便利だった」「自分にもできた」という小さな成功体験を優先します。就職活動が近づく3年生には、働く環境や会社の見極め方など、より具体的な情報を合わせて渡します。学年が上がるほど問いを具体的にしていくと、学生は自分の経験と将来を少しずつつなげていけます。

スマートフォンを使っている学生に、注意はしないほうがいいのですか

授業の場が何のための場かを伝えることは大切です。ただし、それを叱るだけで終えるのではなく、その学生がゲームの中で発揮している力に目を向け、その力を授業でも使えることを示してあげてください。注意だけでは向きは変わりませんが、自分の力が授業で役に立つと分かると、学生は自分から向きを変え始めます。

まとめ――主体性は「育てる」より「向きを合わせる」

授業中にゲームをしている学生は、主体性がないのではなく、ゲームに主体的になっています。力は全員が持っていて、違うのは、その力がどこに向いているかです。

教員にできるのは、学生がすでに持っている力に目を向け、その力を授業のほうへ向ける問いを出すことです。好きなことの中に出ている力を、発動トリガーと判断に分けて見せ、「この授業は、あなたの好きなことにどう活かせるか」と問いかける。その積み重ねが、学生のベクトルを少しずつ授業へ向けていきます。

次の授業で、ぜひ一つ試してみてください。授業の最後に「今日の内容は、あなたの好きなことのどこに活かせそうですか」と書いてもらうだけでも、学生の書く言葉が変わってくるはずです。


出典

  • ベネッセ教育総合研究所「第4回 大学生の学習・生活実態調査」(2021年12月実施・全国の大学1〜4年生 4,124名) https://benesse.jp/berd/up_images/research/4_daigaku_chousa_all.pdf
  • 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」 https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html
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