「先生、私には強みがありません」。キャリアの授業や就職支援の面談で、この言葉を聞いたことのない教職員の方は少ないのではないでしょうか。
この記事では、そう話す学生に、教職員がまず何を伝え、どんな問いで一緒に強みを見つけていけばよいかを、私が大学の授業や就職講座で実際にお伝えしている考え方と手順でご紹介します。
「強みがない」と言う学生に、最初に伝えたいこと
最初に伝えたいのは、「強みがないのではなく、まだ言葉になっていないだけ」ということです。能力は全員が持っています。色濃く出るもの、出にくいもの、特定の場でだけ出るものがあるだけで、能力そのものが無い人はいません。
これまで私は、大学生から管理職の方まで多くの人とお話をしてきましたが、対面で話を聞いたあとに、あなたのいいところは無いですね、と伝えた相手は一人もいません。強みが見つからないのは、本人の力が足りないからではありません。自分を見る角度が、たまたま嫌な記憶の側に寄っているからです。
ですから教職員の役割は、強みを「教える」ことではなく、学生が自分を見る角度を一緒に変えることだと、私は考えています。
なぜ学生は「強みがない」と思い込むのか
学生が「強みがない」と言うとき、その裏には、たいてい次の3つが重なっています。
| 思い込みの原因 | 学生の中で起きていること | 教職員の最初の一言の例 |
|---|---|---|
| 遠慮が美学の中で育った | 「調子に乗るな」「上には上がいる」と言われて育ち、自分のよいところを口にすることに慣れていない。就職活動のときだけ急に「あなたのいいところは」と聞かれて混乱する | 「自分をほめるのが苦手なのは、自然なことです。今日は一緒に探しましょう」 |
| 嫌な記憶ほど残りやすい | 人の脳は身を守るために、嫌な体験をすぐ思い出せるよう記憶する。ほめられた言葉は残りにくく、はじいてしまう | 「いま思い出しているのは、苦手だったときの場面ではありませんか」 |
| 一人で振り返っている | 一人で過去を振り返ると、周りへの嫉妬と自分を下げる言葉ばかりが出てくる | 「自己分析は、一人でやらなくて大丈夫です」 |
1つめは、日本で育った多くの学生に当てはまります。子どもの頃から遠慮をよしとされてきたのに、就職活動の場面でだけ自分のよさを語るよう求められる。この矛盾の中で戸惑うのは、まじめな学生ほど当然のことです。
2つめは、脳の仕組みの話です。たとえば「あなたは優柔不断だ」という言葉が心に残っているなら、それは誰かに言われた言葉である可能性が高いのです。嫌な体験は、火に近づかないのと同じように、身を守るためにすぐ思い出せる場所に置かれます。一方でほめ言葉は残りにくい。ですから、何も工夫せずに自分を振り返ると、嫌な記憶の側の自分ばかりが見えてしまいます。
3つめは、自己分析のやり方の問題です。自己分析は、本来は誰かに問いかけてもらい、出てきた言葉を「こういう一面もありますね」と返してもらうことで進むものです。一人で振り返って元気になれないなら、そのやり方はいったんやめてよいのです。
社会人になることへの学生の不安を調べた調査でも、不安の中身として多いのは「仕事をうまく進められるか」(59.8%)と「職場での人間関係」(57.7%)でした(株式会社マイナビ「2027年卒 大学生キャリア意向調査8月<社会人への不安と期待>」・2026年9月30日発表・有効回答1,557名)。自分の力を信じきれない気持ちが、就職への不安とつながっていることがうかがえます。
前提を変える――能力は全員持っている
強みを探す前に、教職員の側が持っておきたい前提があります。「この学生には力がある。まだ発揮される場と向きが合っていないだけだ」という前提です。
経済産業省は、社会で働くうえで必要な力を「社会人基礎力」として、「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」の3つの能力で示しています。あわせて、自分を認識して振り返り(リフレクション)をしながら力を発揮することの大切さも挙げています(経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」)。
私は授業で、学生にこう伝えています。この3つの力は、全員が持っていると思ってください、と。
たとえば「ストレスに強くない」と言う学生でも、好きなゲームなら何時間でも集中して続けられることがあります。それは力が無いのではなく、自分でコントロールできる場の中では、人は力を発揮できるということです。授業中にゲームをしている学生は、主体性が無いのではなく、ゲームに対して主体的になっています。向き(ベクトル)が授業に合っていないだけなのです。
好きなことの中に出ている力を、社会人基礎力の言葉に置き換えてみると、次のようになります。
| 学生が好きでやっていること | その中で出ている力 | 社会人基礎力の3つの能力 |
|---|---|---|
| 対戦ゲームで勝つための作戦を立てる | 負けた理由を見つける・次の手を組み立てる・新しい戦い方を試す | 考え抜く力 |
| 友だちの誕生日のサプライズを準備する | 相手が喜ぶことを考える・段取りを組む・仲間を巻き込む | 前に踏み出す力・チームで働く力 |
| 料理で好みの味を追いかける | うまくいかなかった理由を考え、分量や手順を変えて試す | 考え抜く力 |
| アルバイトで新人に仕事を教える | 相手が分かる言葉を選ぶ・様子を見て声をかける | チームで働く力 |
好きなことであるほど、考える質は上がります。「考える力がない」と言う学生も、買い物や料理、友だちのためのサプライズでは、しっかり考えています。教職員がこの前提を持っているかどうかで、学生にかける最初の言葉が変わります。
強みを見つける4つの問い
では、具体的にどう問いかければよいのでしょうか。私が授業や講座で使っている考え方を、教職員の方が面談でそのまま使える4つの問いにまとめました。
| 問い | ねらい | 学生の答えの例 | 強みの言葉にすると |
|---|---|---|---|
| ① 理由はよく分からないけれど、ずっとやってしまうことは何ですか | 楽しくて時間を忘れていること(没頭)の中に、その人らしさと力がある | 好きな作品の背景を調べ始めると止まらない | 気になったことの背景を深く調べ、自分なりの仮説を立てる力 |
| ② できるようになるまで、一生懸命取り組んだことは何ですか。できることでも、もっとよくしようと工夫したことは | 結果の大きさではなく、取り組んだ過程を見る | アルバイトの接客で、常連の方の好みを覚えるようにした | 相手の様子から期待をくみ取り、先回りして動く力 |
| ③ 人から「短所」と言われたことは何ですか | 短所は、長所があるからこその短所(裏返し) | 「短気だ」と言われる | 最短で結果を出したい気持ちが強く、すぐに動ける |
| ④ うまくいかなかったことの中で、それでも「できた」ことは何ですか | できていない部分ではなく、できた部分を味わう | 目標には届かなかったが、毎日続けることはできた | 決めたことを積み重ねる力 |
問い①は、いちばん大切な問いです。好きで続けてきたことの中には、その人らしさと、ときに天才的とも言える力が表れます。朝が苦手なのに遊びに行く日は起きられる、忘れ物が多いのに好きなことの準備は完璧、というのはよくある話です。ただし、没頭と依存は違います。終わったあとに充実感が残るのが没頭で、続けたあとに体にダメージが残るのが依存です。
問い②は、結果よりも過程を見るための問いです。採用する側が見ているのは、結果の大きさよりも、その人がどう考え、どう動いたか、そしてその動き方を入社後にも再現できるかです。結果が出なかった経験でも、取り組んだ過程には力が出ています。
問い③は、短所を強みに言い換えるための問いです。たとえば優柔不断と言われる学生は、「選択肢のメリットや魅力から考えるので、決めるまでに時間がかかる。ただし決められた時間内には出す」と言い換えられます。飽き性は「新しいことに挑戦したい気持ちが強い」、余計なことをしてしまうは「もっとよくしたいと考えて、プラスアルファをしてしまう」と言えます。短所は、長所とのトレードオフなのです。
問い④は、自分を責める癖のある学生に効く問いです。目標を10として、いま2まで来ているとき、ほとんどの人はできていない8を見ます。悔しさをバネにできる人はそれでかまいません。でも、それで「だから自分はダメだ」となるなら、できた2を味わうほうが次に進めます。できている自分を認めると心にゆとりができ、自分よりできる人を、嫉妬ではなく敬意と学びの相手として見られるようになるからです。
見つけた強みは「経験」で裏付ける
強みの言葉が見つかったら、次はそれを経験で裏付けます。強みだけを言って、面接で「それはどんな経験で?」と聞かれて答えられなければ、本当かどうかを疑われてしまうからです。
私が授業でお伝えしている自己PRの組み立ては、次の5つです。
| 順 | 自己PRの要素 | 書くこと | 考えるときの順 |
|---|---|---|---|
| 1 | 強み | 自分の強みをひと言で | 4番目 |
| 2 | 価値観 | なぜその強みを大切にしているか(無くても成り立つ) | 5番目 |
| 3 | 経験・場面・役割 | どの経験の、どの場面で、どんな役割だったか | 1番目 |
| 4 | 具体的にどう動いたか | 何を考え、なぜそうしたか(意図・根拠・背景・理由) | 2番目 |
| 5 | まとめ | 強みを別の言葉で言い直し、これからも発揮できることを示す | 3番目 |
ポイントは2つあります。
1つは、考える順番は「経験 → どう動いたか」からだということです。いきなり「私の強みは」と考えると手が止まりますが、どの経験のどんな場面で力が出ていたかから考えると、頭の中が整理しやすくなります。
もう1つは、個性は4番目の「どう動いたか」に出るということです。アルバイト・サークル・ゼミといった経験そのものは、多くの学生が似ています。差が出るのは、その中で何を考え、なぜそう動いたかです。企業や公務の採用担当者も、この部分をとても大切に見ています。
自己PRとガクチカ(学生時代に力を入れたこと)が同じ経験になってしまう学生には、1つの経験を場面に切り分けることを勧めてください。たとえばカフェのアルバイトなら、接客・閉店の作業・新人への指導・シフトの調整・発注は、それぞれ別の場面です。場面が変われば、見えてくる強みも変わります。
また、アピールは必殺技である必要はありません。本人が当たり前だと思ってやっている日常の習慣にこそ、その人らしさが出ます。「大したことではないのですが」という前置きは、外すように伝えてあげてください。
中学や高校の経験を使ってもかまいません。ただし、その力をいまの大学生活でも発揮していることを添えると、入社後にも再現できる力だと伝わります。
生成AIを使うときに、学生に伝えたいこと
いまは多くの学生が、自己分析や自己PRに生成AIを使います。私は、使うこと自体は勧めています。とくに「自分は大したことのない人間だ」と思っている学生ほど、自分では言葉にしにくい部分を、AI が出した文の中から「これはやった」と選び取れることがあるからです。
ただし、次の3つは必ず伝えてください。
- 生成AIが作るのは、60点くらいの土台です。そこから先は、自分で読み直して批判し、足りないところは大学の窓口で相談して仕上げます。
- やっていないことを入れない・丸写しをしない。面接で深く聞かれたときに、自分の経験として話せないからです。
- 「どう動いたか」の部分は、AI では言葉にできません。面接で「具体的には」「なぜ」と聞かれて答えられなくなるのは、ここを自分で考えていないときです。
生成AIは、答えをもらう道具ではなく、自分の考えを広げる道具です。この使い方を、強みを見つける面談とセットで伝えると効果的です。
教職員が気をつけたい3つのこと
最後に、学生の強みを一緒に探すとき、教職員の側が気をつけたいことを3つ挙げます。
1つめは、一人でやらせないことです。自分で振り返って元気になれない学生には、ワークシートを渡して終わりにせず、対話の時間を取ってください。能力の一覧に1つも丸がつけられなくても大丈夫です。丸をつけられないから自分はダメだ、と思わせないことのほうが大切です。
2つめは、結果の珍しさで評価しないことです。全国大会や代表の経験がなくても、途中でやめた経験があっても、そこには学びがあります。途中でやめた経験も、なぜやめたのかを振り返れば、自分に合わない環境が分かる、次の選び方の勉強になります。
3つめは、相談に来てよい場所であり続けることです。真面目な学生ほど、就職活動を自分一人で何とかしなければと抱え込みます。用事がなくても行ってよい場所、「助けて」と一言言いに行ける場所として、キャリアセンターや研究室を開いておいていただければと思います。
よくある質問
短所しか出てこない学生には、どうすればいいですか
短所はそのまま書き出してもらってかまいません。そのうえで「その裏側にある気持ちは何か」を一緒に考えます。短気なら「早く結果を出したい」、心配性なら「失敗を防ぎたい」。短所の裏には、たいてい長所があります。ネガティブな見方は、自分を振り返る反省の場では役に立ちますが、面接で相手に向けて使うものではありません。
適性検査で「ストレスに弱い」と出た学生が落ち込んでいます
その結果は、苦手なことを思い浮かべながら答えたために出ただけかもしれません。私は面接で、そうした結果が出た方には「どんな場面を思い浮かべて答えましたか」と聞くようにしています。好きなことや得意な場面では、ストレスをうまくコントロールしていることが多いからです。結果だけで本人を決めつけないよう、言葉をかけてあげてください。
強みは1つに絞ったほうがいいですか
まずは1つの経験を深く掘り下げて、1つの強みを自分の言葉で話せるようにするのがよいと思います。複数の経験や強みを組み合わせるのは、その次の段階です。1つを深く語れる学生は、面接で深く聞かれても崩れません。
まとめ――「ない」から「ある」へ、見る角度を変える
「強みがない」と言う学生は、力がないのではなく、自分を見る角度が嫌な記憶の側に寄っているだけです。教職員にできるのは、能力は全員持っているという前提に立ち、好きなこと・取り組んだ過程・短所の裏側・できた部分の4つの問いで、学生と一緒に見る角度を変えていくことです。
そして見つかった強みは、「どう動いたか」の経験で裏付けます。その人らしさは、そこに表れます。
次の面談で「強みがありません」と言う学生に出会ったら、まずは「理由はよく分からないけれど、ずっとやってしまうことは何ですか」と聞いてみてください。学生の表情が、少し変わるはずです。
出典
- 経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」 https://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/index.html
- 株式会社マイナビ「2027年卒 大学生キャリア意向調査8月<社会人への不安と期待>」(2026年9月30日) https://career-research.mynavi.jp/reserch/20260930_115158/
